事例紹介

2025年7月17日

沖縄県石垣市 福祉施設職員 浦山秀二さん、友理子さん
子どもたちの健康を第一に考えて、新天地への移住を決意

浦山秀二さん(55歳)と友理子さん(55歳)が石垣島川平(かびら)地区に移住して23年になる。川平は島の北西部にあり、海の美しい石垣島でもとりわけ透明度が高く、エメラルドグリーンに輝く川平湾という人気観光地のあるところだ。ミシュランガイドでも三つ星を獲得し、シーズンになると国内外から多くの観光客が集まってくる。とはいえ、夫妻が暮らすアパートは川平湾から10分ほど歩いた古くからの集落に建ち、近くには地域の祭祀が行なわれる御嶽(うたき)もある静かな住宅地だ。この場所で秀二さんと友理子さんは二人の子どもを育て、30代から50代までの時間を過ごしてきた。
秀二さんと友理子さんは共に長野県出身。秀二さんは北信の木島平村、友理子さんは長野市の隣の須坂市に生まれた。移住するまで、二人とも石垣島はもちろん沖縄県にすら何のつながりもなかったが、人の縁に導かれ、この地で暮らすようになった。移住した時、長女は5歳直前、長男はまだ2歳になったばかり。二人が石垣島に生活の場を築くまでに、どんな歩みがあったのだろうか。

故郷の長野県で出会った二人。石垣島は遠い存在だった

秀二さん:僕は北信の木島平村に生まれましたが、中学から隣の中野市に転居し、地元の高校を卒業後は、いろいろな仕事をしていました。自動車関係や土建業、バーテンなんかもやりました。その後、葬儀業で働くことになったのですが、その時に仕事でよく利用するガソリンスタンドで働いていたのが妻でした。そこで顔見知りになったことから付き合いが始まったわけです。

友理子さん:私は父が長野電鉄で働いていたこともあり、須坂市で生まれて育ちました。私も高校を出てからいろいろと仕事をしましたが、ガソリンスタンドの後、雑貨や土産品などの企画制作・卸をする会社で働いていました。そうしたら、会社がとても忙しくて人手が足りない。社長から「誰かいい人がいないか」と聞かれたんです。

秀二さん:その頃、僕は葬儀業でも花輪の手配や設置などを担当していたのですが、会社から営業担当への異動を打診されて……。葬儀業の営業担当となると本当に24時間、いつ仕事が入るか分からない。先輩社員の働きぶりを見ていると、とても僕には務まらないと思っていたところに、彼女から「アルバイトででもいいからどう?」と誘われた。そこで、彼女が働いていた会社で僕も働くことになったんです。

友理子さん:まだ結婚する前だったので、まあいいかなと(笑)

秀二さん:最初はバイトで商品の発送や営業の手伝いをしたりしていたのですが、そのうち営業の先輩が長期で休業することになり、その人の担当営業地域を受けもつことになって、21歳で正社員となりました。実はその先輩が、その後に会社を辞めて、夫婦で石垣島へ移住したんです。その時は、石垣島はまだ遠い存在で、まさか自分たちも同じように石垣島へ移住することになるとは夢にも思いませんでした。

子どもの健康を考え、生活をリセットしようと選んだ場所が石垣島

友理子さん:結婚したのは私が22歳、彼が23歳の時です。私は会社を辞めて、他の会社でパートのような形で働きましたが、若かったので、暇があれば二人で遊んでいましたね。新婚旅行はエジプトとギリシャに行き、新居が須坂市内だったので冬にはスノーボードにもよく出かけました。

秀二さん:そんな状態だったので、長女が生まれたのは結婚から4年後。1997年でした。長男がその3年後に生まれます。ところが、長女のアトピーがひどくて……。
実は僕もアトピーだったので遺伝したのかもしれません。また、会社もいろいろあって、本業を山梨県韮崎市の会社に事業譲渡する形になり、一時的に韮崎市に家族で転居することになりました。しかし、新しい会社での人間関係や暮らし、長女のアトピーなどもあって、このあたりで生活をリセットしたいと思うようになったんです。

友理子さん:新生活を送るならどこがいいかと、家族で日本地図を見たり、旅行雑誌を見たりしていたら、長女がここに行きたいと指さしたのがなんと石垣島!

秀二さん:石垣島なら、二人が知っている移住した例の先輩もいるし、リフレッシュを兼ねて行ってみようということになりました。それが2002年の1月です。

友理子さん:どこに住むにしろ、移住するなら長女が小学校に上がる前がいいと思っていたので、このタイミングしかないとは思っていました。

家探しには苦労したが、人の縁に恵まれて島の生活をスタート

秀二さん:石垣島に来たのはその時が初めてでした。着いてすぐに先輩に電話をしたらとてもびっくりされました。

友理子さん:驚いたのは長女のアトピーが島に着いて3日で改善し始めたこと。石垣島の気候が合っているのかなと思って、もうここに住むしかないなと思いました。

秀二さん:そこで不動産会社を訪問したり、電話を掛けたりして賃貸の家探しを始めたのですが、これがまったく決まらない。問題になったのは仕事です。「仕事はどうするのか」と問われ、「こっちに仕事のあてはあるのか」と聞かれる。仕事が決まっていないと、家を貸してもらえないんです。保証人の問題もありました。

友理子さん:今は違いますが、23年前は島にはシャワーのみで湯船のない家が多かった。私たちは長野県育ちなのでやはりお風呂には入りたくて……。

秀二さん:困っていたら、八重山住宅サービスという不動産会社の社長夫人がいい人で、「長野県の人にはお世話になったことがある」と、自社所有だったこのアパートを紹介してくれたんです。自社所有だから保証人は県外在住の人でもよいし、「街からは遠いけど、川平には移住者も多いし、住みやすいよ」と。2LDKで5万円台でした。

友理子さん:何よりありがたかったのはお風呂があったこと。それに家から歩いて行ける距離に保育所や小学校があったことです。

秀二さん:いったん長野に帰って引っ越しの準備をし、1カ月後の2002年2月には石垣島での生活をスタートさせました。二人とも33歳。若かったからできたのかもしれませんね。

家の次は仕事探しに奔走。30代なら仕事はいろいろある

友理子さん:移住した時は長女が5歳直前、1月生まれの長男は2歳になったばかり。子どもを保育所に入れるには、妻が働いていないと資格がありません。そこですぐに仕事を探して、私はハーブ園でパート、夫はアルバイトを始めました。

秀二さん:ハローワークに行って仕事を探しました。30代前半なので、仕事はいろいろありました。車海老の養殖場で働いたりしましたね。

友理子さん:ハーブ園の後は、ホテルで働いたり、石垣島天文台で事務をしたりしました。今は子どもたちも独立して夫婦二人の生活なので、家にいてもしょうがないから、スーパーとホテルのダブルワークをしています。

秀二さん:養殖場での仕事で体調を崩してしまい、ハローワークでまた仕事探しをしていたら、新しく福祉施設ができるので職員を募集していたんです。実はグッズや雑貨の会社時代に個包装を障害者施設に発注していて、障害者と向き合った経験がありました。幸いにも採用され、介護職や事務職などを担い、今は相談員をしています。

友理子さん:通勤は車ですが、2人とも地方出身なので車の運転は苦ではありません。ちなみに、移住してしばらくは長野ナンバーだったのですが、沖縄ナンバーにすると保険料が安くなると聞いて、あわてて沖縄ナンバーに替えました(笑)

子どもがいれば、地域に溶け込むのは比較的容易。イベントには積極的に参加を

秀二さん:これは移住を考えている若い人たちに声を大にして言いたいのですが、子どもがいることで、地域の人たちと仲良くなるチャンスはとても大きくなると思います。長女は最初、保育園に入ったのですが、保護者同士の付き合いが生まれます。その同級生たちがそのまま地域の小学校、中学校に上がるから、保護者もそのまま小中学校のPTAに参加することになる。そうすると地元の人たちとの接点が多くなって、仲良くなる機会が増えるんです。

友理子さん:石垣島はPTAの活動が盛んで、父母バレーの大会もあるんです。私も参加させられました(笑)

秀二さん:石垣島には、結願祭(けつがんさい)という五穀豊穣、子孫繁栄、無病息災などの願いを一つにまとめた祭事があります。他の地域では何年かごとに行なわれるのですが、川平では毎年やるんです。PTAなどで地域の人とつながっているうちに、その祭りや他の祭りの実行委員などの役が回ってくる。そういうことの積み重ねは大きいです。子どもたちがいないと、こうしたつながりは作りにくいでしょうね。

友理子さん:ただ、どうしても付き合いは濃くなりますから、人付き合いが苦手な人には大変かもしれません。

秀二さん:それはありますね。僕の場合、もともと長野県の木島平村という地縁関係の濃厚な地域で育ったのであまり苦にはなりませんが、近所付き合いがクールな都会育ちの人には難しく感じることもあると思います。

島で暮らす際に知っておいたり、気をつけたりしたほうがいいこと

友理子さん:都会の人が苦手と感じるのは虫かな。石垣島ではヤモリ、トカゲなどは普通に家に出てくるし、ネズミも出る時があります。そして、ゴキブリもクモもとにかく大きいんです。私は特に大きなクモがダメ。悲鳴を上げてしまいます。

秀二さん:冬はあまり出ませんが、夏場にはヤモリは普通に家のどこかにいますね。夜になると、部屋のすみからチチチチッと鳴き声が聞こえてきますよ。

友理子さん:湿度が高くて洗濯物が乾きにくいのも悩みですね。乾燥機や除湿機は必需品です。手入れをしないとすぐにカビてしまいます。

秀二さん:確かにカビは問題ありますね。湿気が強いから、車もサビ止めの塗装や加工は必須です。

友理子さん:移住した23年前は買い物とかは不便で、物価も高かったのですが、今は島にスーパーもドラッグストアも百円ショップもあるし、ネット通販で何でも買える。その意味では不自由はありません。とはいえ、市内ならまだいいですが、このあたりは交通の便が悪いので、車の運転は絶対条件です。

秀二さん:弱点は医療関係でしょうか。医院や病院の数は多いのですが、先端的な医療や高度な医療は沖縄本島まで行かないと受けられません。また子どもの教育の面も悩ましい点です。ただ、子育てする環境としては、とても良い場所だとは思います。僕たちは石垣島に住んで、この場所で子どもたちが伸び伸びと成長していく姿を見て、移住してきてとても良かったと思っています。

INFORMATION:石垣島お薦めスポット&体験

私たちは石垣島に移住して20年以上経過していますが、今でも「食べ物めぐり」を楽しんでいます。友人や知人から「あそこのが美味しい」と教えられ、八重山そばや魚天ぷら、ジューシー等の食めぐりを楽しんでいます。

八重山嘉とそば

八重山そばですが、スープに合わせたお店オリジナルの麺です。お薦めは、ソーキそばセット。とても柔らかいソーキ(豚のスペアリブ)とさっぱりしたスープとジューシー(炊き込みご飯)、小鉢で漬物や旬の野菜料理。石垣島産の車エビやアーサーを使ったそばメニューもあり、家族なら違うものを頼んで、分け合って食べても楽しいです。街からは少し離れていますが、店からは海がとても綺麗に見え、自然を感じながら食事ができます。

所在地: 〒907-0453 沖縄県石垣市川平1216−602
電話番号: 0980-88-2329

楽しい食べ物めぐり① 鮮魚店の天ぷら

石垣島の鮮魚店は、家族に海人(漁師)のいる店舗が多く、店舗の名前も海人の奥さんの名前や船の名前を冠にしていたりします。刺身も美味しいのですが、私や子どもたちは、店舗ごとに工夫された独自の衣を付けた「魚天ぷら」が大好きです。ミックスでお願いすると、魚天ぷら、イカ天ぷら、野菜天ぷら等が食べられます。揚げたてを狙うなら、スーパーなどではなく、個人店舗の鮮魚店に午後4時くらいに行くのがお薦め。お値段は300円~500円ほど。二人なら300円で十分。おやつ感覚で食べても楽しいです。

楽しい食べ物めぐり② ジューシーおにぎり

個人や企業が店舗に卸したり、直販をしたりしていて、大きなスーパー(マックスバリュー、サンエー等)や個人商店で販売されています。お薦めは、「ピパーチ入りジューシーおにぎり」。2個セットで販売されていることが多く、子どもたちと買い物に行くと、毎回リクエストされて購入。息子は、おやつ感覚で食べていました。硬ジューシー(こうじゅーしー)は石垣島独特の炊き込みごはん。「ジューシーおにぎり」は、これをおにぎりにしたものです。「ぼろぼろジューシー」は、それをお粥にした感じのもの。こちらも大人気です。いろいろな店のものを食べ比べるのも楽しいです。

※ピパーチとは、東南アジア原産のコショウ科のつる性植物で、和名を「ヒハツモドキ」といいます。

石垣島の気候に合っていることから栽培されているスパイスの一種です