2025年2月28日
富山県入善町 Stay goldてらだファーム 寺田晴美社長
名産ジャンボスイカ、北陸初のオリーブを手掛ける「女性目線の発想と行動力」

地域の特産を育む農業法人社長の「働く女子力」
富山県東部の入善町。北は日本海に面し、南に立山連峰をのぞむ平野には豊かな田園が広がる。この地で農業法人を経営する寺田晴美さん(60)。40代から実家の農家の手伝いをはじめ、人気商品となった里芋コロッケ、地元特産のジャンボスイカの復興、北陸初のオリーブ生産など次々とプロジェクトを実現させた。「新しいものを産み出せたのは女性ならではの視点や行動力があったから」。そう話す寺田さんが、農業の魅力と課題について語った。
嫌いだった農業
私の家は先祖代々農家で両親は懸命に働いていましたが、私は子供の頃からずっと農業が嫌いでした。休みの日も関係なく仕事があるので、両親に構ってもらえない。いわゆる3Kの仕事だとも思っていました。私は高校卒業後、地元の会社に就職し、農業とは縁のない生活を送っていました。それでも両親が老いると、まかせっきりにはできないと、田んぼの草むしりや収穫の手伝いをはじめましたが、正直なところ義務感でやっていました。
変化のきっかけは、少しでも仕事を楽しめるようになろうと、野菜ソムリエを取得したことでした。学んだ知識を活用して調理した野菜が食卓に並ぶと、本当に愛おしく思えますし、家族や友人にも喜ばれます。そうした中で、少しずつ農業が楽しくなっていきました。
完売した里芋コロッケ
里芋や白ネギの出荷について話し合う地元の農家の集会があり、高齢の父に代わり初めて出席することになりましたが、会議室に入ってすぐに違和感を覚えました。女性は私だけで、ほかは全員男性だったからです。集会では収穫時期を迎えていた里芋が話題になっていましたが、その頃は、規格されたサイズに合わないものは廃棄されていました。今でこそ、食品ロスが社会的な課題になって、直売所などで、規格外の野菜も売られるようになりましたが、当時そんな発想はありませんでした。
大量に捨てられる里芋を見て、常にもったいないと思っていた私は「何か加工すればいいんじゃないですか。たとえばコロッケとか」と提案しました。ところが、年上の男性諸氏からは「そんな面倒くさいことはできん」「カネにならん」と一笑に付されました。
私は「やってみないとわからないでしょう」と思ったものの、それ以上は何も言えませんでした。
ところが、その後、集会に参加していた営農指導員の男性に「農業祭のイベントで(里芋コロッケを)売ってみないか」と声をかけられました。もちろん、「やります」と即答。
母と友人の手を借りて、出荷しない里芋を集め、コロッケを作りました。10月に行われたイベントは2日間。初日200個を準備しましたが、午前中に完売。翌日に向けて急遽200個を作りましたが、それもすぐに完売しました。捨てられていた里芋が立派な商品になるとわかって、私は「農業はおもしろい!」と思えるようになりました。

農業女性グループ「百笑一喜」
農協祭りで成功した里芋コロッケは「さとっころっ」と名付け、翌年の1月から2月にかけてJAの直売所で販売したら飛ぶように売れました。これはヒット商品になると確信しましたが、私と母、友人の3人だけでは量産ができません。そこで、地元の農家の娘さんやお嫁さんに声をかけ、女性7人で「百笑一喜」というグループ立ち上げました。

里芋は秋に収穫し、コロッケは農閑期である冬の間にまとめて生産します。商品を保存する冷凍庫はJAと入善町の支援で購入することができました。

里芋コロッケは地元はもちろん県外のイベントでも人気で年間約3万個売れた年もありました。
こうした「百笑一喜」の活動がきっかけで、地元の農家の女性らが外に出て、農業の活動に参加する機運が高まっていきました。

ブログやSNSの発信でモチベーションを高める
売り上げを増やすためにインターネットを通してお米や野菜の直販がしたい。そう考えて始めたのがブログです。
田植えの様子や収穫した野菜を使った料理の写真をアップすると、本当にあれよあれよという間にフォロワーが増えました。うれしくなって農業のこと、野菜のことを書いて毎日更新すると、1日にコメントが50件もつきました。「トマトおいしそう」「農業は大変ですね。お疲れ様」といったコメントをもらうと、すごくモチベーションが高まりました。
特に野菜づくりには力を入れて、一時はじゃがいもやキャベツといった定番の野菜を50品目ほど作ってしましたし、インターネットで見つけた新種の野菜(プチベール ケール×芽キャベツ)の栽培も試みました。できる限り農薬の使用を減らし、直売所向けの野菜には栄養価やレシピをつけて販売しました。
料理人は鮮度+ストーリーを求める
たまに食事に行く隣町の飲食店の男性オーナーが野菜にこだわっていたので、「うちの野菜は減農薬で育てているから、もっとおいしいですよ」と伝えると、「今度、畑を見に行っていいですか」と頼まれて、訪問を受けました。それ以来、お付き合いが始まり、さらに口コミでほかの飲食店さんとの取引も増えました。
飲食店の方々と関わる中で、料理人は材料にも、生産者がなぜ、どのような思いで創ったかのかというようなストーリーを求めていることがわかりました。私も飲食店のメニューに入善町てらだファーム産と書かれているのを見ると、うれしい気持ちになります。
名産ジャンボスイカの再生に取り組む
2017年、古くから入善町の特産品だったジャンボスイカは生産者の高齢化で存続の危機を迎えていました。出荷組合と町が手を組んで、若手の農家にノウハウを継承しようというキャンペーンがあり、てらだファームを含めて10軒が手を挙げました。
ところが、いざ種をまいてみると、育てるのがすごく難しい作物でした。大きくするためにひとつの株にひとつのスイカだけを育てます。そのために枝や実を間引き、雑草の芽も徹底的に摘みますが、すべて手作業。本当に腰が痛くなります(苦笑)。収穫のタイミングで味が左右されるので、日ごろからの管理が常に怠れません。そのため途中で栽培をあきらめる農家さんもぽつりぽつりと現れました。
一時は私もあきらめそうになりましたが、それでも指導についてくれば年配の男性の方がとても親切丁寧に教えて下さったことが励みになり、続けられました。その結果、収穫を迎えることができ、その後、ファームの看板商品にもなりました。現在は、毎年700玉ほど生産し、JA経由で300玉、直販で400玉を売っています。インスタグラムやフェイスブックに載せると、全国の方々からたくさん注文が入ります。毎年、期待されている方も多いので、やめるわけにはいきません。

北陸初のオリーブに挑戦
あるとき、地元の友人の家を訪ねると、庭で観賞用にオリーブの木を育てていました。聞くと、ちゃんと実も成るとか。温暖な地域で育つイメージのオリーブが、この寒い北陸の地で育つと知って驚きました。私は毎年のように名産地の小豆島から取り寄せるほどオリーブが好きで、友人の家で育った実を試しに新漬けにして食べてみました。それがすごくおいしくて。
「てらだファームでオリーブを育てて新漬けを販売しよう」。そう決めると、さっそく小豆島へ視察に向かいました。生産者の方々のお話を聞き、さらに本やインターネットで新漬けに適した品種を調べて最初の年(2016年)は80本の苗を購入し、植えました。

北陸の冬は寒く日照時間も短いため暖かい地域に比べて成長は遅かったものの、幹や枝がしっかり伸びてきたので、3年後には60本を新たに植えました。
そして苗を植えてから5年後、富山県で初めてオリーブの新漬けを商品化しました。私たちの試みを聞いて、全国から視察の方たちがやってきました。てらだファームの生産がきっかけとなり現在、富山県の砺波市や福井県福井市でオリーブの産地化が試みられています。
私たちのオリーブ畑は小さい規模ですが、木が年々成長することで実の収穫量が増え、昨年からはオリーブオイルも生産・販売できるようになりました。

課題は人手不足
農業は楽しくてやりがいがありますが、厳しい仕事でもあります。利益を出すのが難しく、しかも作業はハードです。農家の高齢化とともに廃業される方は後を絶ちませし、若い就農者が少ないので、私たちのファームでも働き手が足りないのが現状です。都会の方で農業に関心を持たれる方も増えているそうですが、現実に働くとやめてしまう人も少なくありません。特に近年は夏の猛暑傾向が強まり、その時期は働き慣れたスタッフにとってもつらい環境です。IT技術で作物の状況を把握し、効率的に育成する活動もされていますが、設備コストや採算を考えると、すぐに導入するのは現実的ではありません。てらだファームでは、今できる暑さ対策や生産性の向上、人件費の値上げなどで人手不足に対応していきたいと考えています。
そんな状況ではありますが、朗報もあります。大学を卒業し、会社員をしていた30代前半の長女が春にわが社に入社し、さっそく今年の田植えで貴重な戦力になってくれました。
現場でチャットGPTを使い、知識を得ている姿には新たな農業世代がもつ可能性を感じます。てらだファームでは、日本の農業の未来のためにともに働いてくださる方を募集しています。

【告知】
商品情報
- ジャンボスイカ(7月中旬)
- オリーブオイル、新漬け(11月初旬)
- 里芋コロッケ(通年)
- コシヒカリ(9月から)
求人情報
Stay goldてらだファームでは一緒に働く仲間を募集中です!
ほか商品の購入、視察・見学の申請はこちらまで。

寺田晴美(てらだ・はるみ)
1964年、富山県入善町生まれ。Stay goldてらだファーム代表取締役社長。高校卒業後、会社員として働く。2006年高齢の両親をサポートするために会社を退職し就農。14年女性農業者の親睦グループ「百笑一喜」を立ち上げ、さといもコロッケの生産を開始。同年当時日本最北のオリーブ栽培を始める。15年Stay goldてらだファームを設立、代表取締役社長に就任。17年入善ジャンボスイカの生産に着手。農業の未来をつくる女性活躍経営団体100選に認定。23年農山漁村女性活躍表彰 農林水産大臣賞受賞。
1964年、富山県入善町生まれ。Stay goldてらだファーム代表取締役社長。高校卒業後、会社員として働く。2006年高齢の両親をサポートするために会社を退職し就農。14年女性農業者の親睦グループ「百笑一喜」を立ち上げ、さといもコロッケの生産を開始。同年当時日本最北のオリーブ栽培を始める。15年Stay goldてらだファームを設立、代表取締役社長に就任。17年入善ジャンボスイカの生産に着手。農業の未来をつくる女性活躍経営団体100選に認定。23年農山漁村女性活躍表彰 農林水産大臣賞受賞。